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東京地方裁判所 平成12年(ワ)11646号 判決 2000年12月15日

原告

辻田眞治

ほか一名

被告

株式会社要興業

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告辻田眞治に対し金四一一三万〇八〇八円、原告辻田俊子に対し金四一一三万〇八〇八円及び右各金員に対する平成一一年一一月一九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を被告らの、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、連帯して、原告辻田眞治に対し金四五五一万一三七七円、原告辻田俊子に対し金四五五一万一三七七円及び右各金員に対する平成一一年一一月一九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告ら負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  争いのない事実及び容易に認定し得る事実

1  事故の発生

(一) 日時 平成一一年一一月一九日午前七時三五分ころ

(二) 場所 東京都江東区夢の島三番地先路上

(三) 被告車 被告堀内俊幸(以下「被告堀内」という。)が被告株式会社要興業(以下「被告会社」という。)の業務として運転していた、被告会社の保有する普通貨物自動車(ゴミ収集車)

(四) 被害車 辻田一寛(昭和四三年一一月一日生、当時三一歳。以下「一寛」という。)の運転していた足踏み式自転車

(五) 事故態様 亀戸(北)方面と新木場(南)方面とを結ぶ道路(以下「本件道路」という。)を新木場方面に向けて走行していた被告車が、本件道路から分岐して清掃工場(東)方面に向かう道路(以下「本件交差道路」という。)のある交差点(以下「本件交差点」という。)を左折進行していた際、被告車の左側面が、本件道路の東側に設置された自転車通行可能な歩道(以下「本件歩道」という。)を新木場方面に向かって走行して本件交差道路を横断走行しようとした被害車と衝突し、被害車を運転していた一寛は被告車の車底部に入り込み、被告車に轢過されて死亡した(以下「本件事故」という。乙一の6、9、18から21、弁論の全趣旨)。

2  被告らの責任

被告堀内には、被告車を運転走行するに際し左後方の安全確認義務を怠った過失責任があり、被告会社には、被告堀内の使用者責任及び被告車の運行供用者責任がある。

3  原告らの相続

原告らは一寛の両親である(甲二の2、3)。

二  争点

1  本件事故の態様と被告堀内及び一寛の過失割合

(一) 被告らの主張

本件事故は、被告堀内が左折に先だって早めに左折指示の合図を出していたのに一寛がこれに適切な対応しないまま走行し、それゆえに急制動して被害車を転倒させ、本件事故に至ったのであるから、一寛にも前方不注視、高速運転の過失があり、一五パーセントの過失相殺をすべきである。

(二) 原告らの主張

一寛は、被告車が被害車の存在を認識し、停止した上で被害車を優先してくれるであろうと考えて直進したが、予期に反して突然被害車の進路を妨げたために驚いて転倒したものと考えられ、本件事故が一寛の前方不注視、速度の出し過ぎに起因するものとはいえない。

2  損害額の算定

(一) 原告らの主張

(1) 葬儀費用(請求額 一二〇万円)

(2) 逸失利益(請求額 五七〇二万二七五五円)

基礎収入を平成一〇年大卒男子の全年齢平均賃金である六八九万二三〇〇円、生活費控除率を五〇パーセント、六七歳までの稼働可能期間である三六年間のライプニッツ係数を一六・五四六八として算定すると以下のとおりとなる。

六八九万二三〇〇円×(一-〇・五)×一六・五四六八=五七〇二万二七五五円

(3) 慰謝料(請求額 二五〇〇万円)

(4) 弁護士費用(請求額 各三九〇万円)

(二) 被告らの主張

逸失利益を算定するための基礎収入は、平成一〇年の実収入である五六二万三二七七円とすべきである。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件事故の態様と被告堀内及び一寛の過失割合)

1  本件事故の態様について

甲八の1から17、乙一の6から11、18から21、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件事故現場付近の状況

本件道路、本件交差道路及び本件歩道の各幅員等、本件交差点付近の状況は別紙図面のとおりである。本件事故現場は、本件交差点から本件交差道路への出口付近の横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)上であり、本件交差道路によって分断された本件歩道の延長線上に位置する。

(二) 被告車の進行状況

(1) 被告堀内は、担当地区での可燃物ゴミの収集を終え、清掃工場に向かう途中であり、本件交差点を左折して清掃工場に入る予定であったので、本件交差点手前では本件道路の第一車線上を走行していた。本件事故当時、前車に続いて走行していたが、本件道路が渋滞していたために発進と停止を繰り返しながらの走行であった。なお、被告堀内は、後方から走行してくるバイクが左脇に入り込むことのないようにあらかじめ本件交差点の相当手前で左折指示灯を表示していた。

(2) 被告堀内は、別紙図面<1>地点で前車に続いて発進し、<2>地点で進行方向左前方に設置されたカーブミラーを視認し、本件歩道上の歩行者等がいなかったのでそのまま進行し、<3>地点で左ハンドルを切り始め、<4>地点で左方向に進行しながら前示カーブミラーを一瞬確認するとともに助手席側の窓から左後方の状況を確認し、更に右前方の歩行者等の確認をした上で、そのまま左折進行した。

(3) そして、<5>地点に至ったときに衝突音と左後部タイヤの乗り上げた感覚を受け、<7>地点で停止した。

(4) 被告堀内は、左折を開始した<3>地点から本件事故に至るまでの間、ことに本件横断歩道に差し掛かる手前の段階で周囲の交通安全を確認するために一時停止をせず、時速約一〇キロの速度で左折進行していた。また、本件交差道路に入る直前(<4>地点)に左後方確認のために、前示カーブミラーを十分に注視していないし、自車のサイドミラーによる左後方確認も全く行っていない。

(三) 被害車の進行状況

被害車のハンドル右側グリップエンドの払拭痕、擦過痕の存在からすると、被害車は本件事故直前に右に横転し、本件歩道上の路面を滑走した上で被告車と衝突するに至ったことが認められ、一寛の身体が被告車の車底部に入り込む勢いが専ら被害車の走行によるものであることも併せると、一寛は、本件事故現場手前に至るまで相当な速度で走行し、本件事故直前に被告車との衝突の危険を感じて急制動措置をとっていたことが認められる。

2  過失相殺率

以上によれば、本件事故は、本件交差点を左折進行するに当たって周囲の交通状況を十全に確認し、また、本件横断歩道に進入する直前に一旦停止し、再度その安全を確認した上で、徐行しながら左折進行すべきであるにもかかわらず、カーブミラーやサイドミラーを使った十分な視認を行わない等左後方の安全確認を怠ったまま、時速約一〇キロの速度で漫然と左折進行を継続した被告堀内の運転態様に主として起因するものといわざるを得ない。確かに、一寛が左折しようとする被告車の存在をあらかじめ認識し、その動きを容易に予測し得たと考えられるのに相当な速度で直進していた点で一寛にも不適切な運転態度があったと認めることはできる。しかし、本件横断歩道が自転車通行可能な歩道を繋ぐものである以上、本件横断歩道を走行することに対する被害車の優先度は極めて高く、前示の被告堀内の運転態様との比較を考慮すると、その過失相殺率は五パーセントにとどめるのが相当であると考える。

二  争点2(損害額の算定)

1  葬儀費用 一二〇万〇〇〇〇円

相当な葬儀費用として前示金額を認める。

2  逸失利益 五七〇二万二七五四円

(一) 基礎収入

一寛(本件事故当時三一歳)の平成一〇年(一寛の年齢は三〇歳)の実収入は五六二万三二七七円である(甲三)が、平成五年三月に大学院(修士課程)を終えて嫁働を開始し(甲四、乙一の14)、未だ五年程度しか経ていない段階での就労の実績を意味する前示賃金を生涯の稼働による逸失利益を算定するための基礎収入とするのは極めて不合理というべきである。

前示賃金が平成一〇年の二五歳から二九歳までの大卒男子の平均年収額(四五六万二一〇〇円)、同年の三〇歳から三四歳までの同年収額(五九八万七三〇〇円)と比較しても全く遜色のないことからすると、一寛は、大卒男子の平均的な労働者の有する稼働能力を十分に有していたと評価することができ、かつ、同人の本件事故時の年齢が三〇歳を若干超えた程度の若年齢であることも併せて考慮すると、同人の逸失利益を算定するための基礎収入としては、大卒の男子全労働者の平均賃金額である六八九万二三〇〇円とするのが合理的かつ相当というべきである。

(二) 生活費控除率を五〇パーセント、六七歳までの三六年間の中間利息控除率(ライプニッツ係数)を一六・五四六八として算定すると、以下のとおりとなる。

六八九万二三〇〇円×(一-〇・五)×一六・五四六八=五七〇二万二七五四円

3  慰謝料 二一〇〇万〇〇〇〇円

一寛の年齢や同人が大学院を卒業し、これからその持てる能力を発揮しようとする機会を突如奪われたこと等の諸事情を考慮すると、前示の金額をもって慰謝料とするのを相当と認める。

4  小計 七九二二万二七五四円

5  過失相殺(五パーセント控除) 七五二六万一六一六円

6  相続 各 三七六三万〇八〇八円

7  弁護士費用 各 三五〇万〇〇〇〇円

本件事件の内容や難易度のほか、以下の点を考慮した。すなわち、当裁判所は、本件の審理の過程で、原告らの損害賠償請求額を合計七六三一万一六一六円とする和解案(慰謝料を二〇〇〇万円、弁護士費用等を二〇〇万円とするほかは前示金額、過失割合と同じ算定方法による。遅延損害金を含まない内容である。)を提示した。これに対し、原告らはこれを受け容れる旨回答したが、被告ら(実質的にはその任意保険会社である住友海上火災保険株式会社)は、前記(第二の二の1の(一)及び2の(二))のとおり主張してこれを拒否した。しかるに、その後の審理の結果、損害賠償額の認定額は右和解提示額を上回る結果となったが、これは、慰謝料を増額して請求を拡張する等、主として、原告ら代理人の訴訟追行の結果によるものである。

8  結論 各 四一一三万〇八〇八円

三  結論

よって、原告らの請求は、被告らに対し、連帯して、原告らそれぞれにつき金四一一三万〇八〇八円及び右各金員に対する平成一一年一一月一九日(本件事故日)から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 渡邉和義)

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